研究概要 |
アデノウイルスEIA遺伝子はウイルス感染後早期に発現するimmediate初期遺伝子に属し,ウイルスの増殖に必須である。またEIA蛋白はEIA自身の転写や他の初期遺伝子の転写を活性化する。以前,我々はEIA遺伝子の上流領域に21カ所のHeLa細胞核蛋白の結合部位をDNaseフットプリント法を用いて位置ずけた。この際,2種類のEIAエンハンサ-配列に共通に結合する蛋白を同定し,EIA factor(EIAーF)と名づけた。本研究で,エンハンサ-配列(A/C GGA A/T GT)をプロ-ブに用いて,サウス・ウエスタン法を試みた結果,λgtll HeLa細胞cDNAライブラリ-からEIAーF蛋白をコ-ドするファ-ジcDNAクロ-ン(λ3ー16)を分離した。λ3ー16ファ-ジの溶原化菌が産生するfusion蛋白を用いて,ゲルシフト法やメチル化阻害実験を行ったところ,fusion蛋白はEIAエンハンサ-配列に特異的に結合した。さらにcDNAの塩基配列はヒトcーets1やcーets2などetsがん遺伝子ファミリ-に高いホモロジ-を示し,その領域はDNA結合に必要なETSドメインに相当した(62%のアミノ酸が両者の間で同一)。この結果はEIAーFがetsがん蛋白ファミリ-に属する新しい蛋白であることを強く示唆した。また,このcDNAをプロ-ブに用いたノ-ザン法で,種々のヒト由来培養細胞株(KB,HeLa,HT1080,MG63)に2.5KbのmRNAが検出された。このmRNAはアデノウイルス感染初期において2ー5倍増加した。現在、ElA遺伝子の転写におけるetsがん遺伝子産物の機能を解析中である。また各種細胞を用いて,etsがん遺伝子の発現レベルとアデノウイルス宿主域との関連性を比較,検討する予定である。
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