研究概要 |
日本の農業では増産、省力化、高品質化などを求めて多種類の農薬が大量に使用されているが、農作物中の残留農薬のについては農薬の有効成分に関して、農薬残留基準が設けられている。 一般に農薬には、有効成分の他に有機溶剤、乳化剤、安定剤などが含有されている。散布された農薬は時間の経過と共に太陽光線や空気中の酸素などによって分解され、農作物中には複雑に変化した乳化剤や安定剤、残存した有効成分などの分解生成物などが残留しているものと考えられる。このため農作物を人が摂取した場合には、有効成分とともに、有機溶剤、乳化剤、安定剤の分解生成物も総合的に生体に影響すると推測される。ただ単に農薬の有効成分の農度のみが残留基準以下であったとしても、必ずしも安全であるという保証にはならないと推定される。そこで我々は数種の農薬について、市販農薬製剤及びそれの分解液の毒性を比較検討し、農薬残留基準について再考した。 有機燐系虫剤(Fenitrothion,Diazinon,Malathion)、有機塩素系殺菌剤(Capten:キャプタン水和剤)の4種類の農薬について、その製剤の残留性と分解生成混合物の変異原性の比較をAmes Testを使用して行った。これらの市販農薬を一般的使用方法に準じて希釈した後、シャ-レ-に分注し自然光に1、2、4、8日間暴露させた。シャ-レ-に付着した残留農薬は残農測定用アセトンで洗い流し、農薬原体濃度を既存の炎光光度検出器付きガスクロマトグラフ(島津GCー14A)で測定した後、それの残存率を求めた。次に、減圧濃縮器を用い約60℃の温浴で内容物を乾固し、それにDMSO(dimethyl sulfoxid)を添加してAmes Testのための試験液を調整した。Ames Testは国立衛生試験所から分与されたサルモネラ菌(Salmonellaーthphimurium TA98及びTA100)を用いて行った。 4種農薬の日数経過にともなう農薬原体の残存率の変化については、Captanは非常に分解しにくいが他の3種の有機燐剤は分解し易いことが認められた(Fig.1)。また、Ames Testの結果は、Captanは非常に強い変異原性を示し、Fenitrothionは弱いながらも変異原性を示すことが明らかになった。Diazinon及びMalathionについては、全く変異原性は認められなかった(Table1)。 実験系の確立に伴い、市販の農産物について、その表面に付着する残留農薬を抽出しその有効成分の定量分析とAmes Testを実施し検討を行い予定であったが、研究代表者平岡幸夫氏が平成3年10月24日に急死したため、農薬の定量分析、Ames Testの実質的実験者を失い、これ以上の研究の続行は不可能となった。
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