研究概要 |
ヒ素系化合物半導体の使用量が最近急増しており,これらのヒ素は化合物としての結晶構造の違いにより,またガリウムやインジウムと共存した場合に,その生体内動態や毒性,発がん性等の異なる可能性がある。そこで,ハムスタ-にガリウムヒ素(GaAs),インジウムヒ素(InAs),インジウムリン(InP)を気管内投与し,その生体内動態および慢性影響について呼吸器官を中心に長期間(約2年)観察し、成績をまとめた。 1.粉砕した半導体新素材の各粒子は不定型を呈し,その先端は鋭角で幾何平均粒径は3.9〜3.2μmであった。 2.GaAs(総投与量;3.75mgAs)群において,対照群との間に体重差は特に認められなかったが,生存率が投与1年前後から有意に低下し,さらに肺胞上皮および細気管支上皮細胞の増生の有意な増加等がみられ,肺に対する障害に加えて全身性の障害が示唆された。 3.InAs(7.5mgAs)群とInP(7.5mgP)群において,対照群と比べてInAs群では体重に有意な低下がみられたが,生存率には差を認めなかった。しかし,これらの投与群では,肺の蛋白症様病変や肺胞上皮および細気管支上皮細胞の増生,肺炎,肺気腫,骨化生等が対照群に比べ有意に高率に観察され,肺に対して重度の障害を引き起こすことが認められた。 4.これら半導体新素材では,対照群と比べて呼吸器官での有意の腫瘍発生の増加はみられず,さらに他の器官の腫瘍発生を含めた総腫瘍発生率においても同様で,催腫瘍性は確認できなかった。 5.実験期間中(約7ヵ月)に死亡したハムスタ-の走査電顕による検索において,肺の細気管支・肺胞領域にそれら粒子の沈着が観察されたことから,半導体新素材の粒子はかなり長期間にわたり肺に停留し、肺に障害をもたらすことが示された。
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