研究概要 |
一部の有機燐化合物に認められる、遅発性神経毒性は"Neurotoxic esterase、NTEと略記"と呼ばれるある種のエステラ-ゼ阻害によって発現するとの仮説(Johnson,1969)が提案されてから、NTEについての数多くの報告がなされた。それらによると、遅発性神経毒性の有無が神経組織、特に脳NTE活性に対する阻害作用の有無と良く相関することから、NTEが最初の標的であるとの考えが一般に認められるようになってきた。しかし我々は、NTEは純粋に取り出されておらず、そのため生化学的性質や生理的意義も不明であり,さらに組織病理学的所見が脳よりもむしろ、脊髄や座骨神経に著明であることなど からNTE活性阻害が毒性の本態であるとの説には疑問をいだいていた。 そこで過去2年間にわたり、薬理学の分野で利用されている受容体結合実験法を応用して、遅発性神経毒物であるDiisopropylfluorophosphate(DFP)をラジオアイソト-プでラベルした[ ^3H]DFPを用いて、その特異的結合部位の有無について検討した。その結果ニワトリ脊髄組織に遅発性神経毒物と反応する特異的結合部位の存在を確認した。本法は薬理学的にも広く認められており、我々の成績の追試、確認は極めて容易である。しかも先に述べたNTEの活性部位と新しく見いだされた特異的結合部位とは異なる可能性が高い。特異的結合部位は遅発性神経毒物の標的である可能性も示唆されるので今後さらに追究する必要がある。
|