研究概要 |
当年度は、前年度の解析結果により注目された環境カドミウム暴露に伴う臓器中Ca濃度の変動について主に解析したのでその結果をここに報告する。対象はCd汚染者としてイタイイタイ病認定患者17名、同要観察者22名、Cd汚染地居住者3名の計42名(61〜91才)、非汚染者として非汚染地居住者15名(64〜84才)の総て女性とした。剖検より採取し、湿式灰化ー原子吸光法にて測定した肝臓、腎皮質、腎髄質、膵臓、甲状腺、心臓、筋肉、大動脈、肋骨中のCdとCa濃度のレベルについては、まず、汚染者群のCd濃度の幾何平均値は統計学的に有意な腎臓での低下とその他の臓器での増加を示し、従来の報告と同様の結果であった。一方、Ca濃度は逆に、腎臓での有意な増加と肝臓と筋肉で有意な低下、膵臓、大動脈、肋骨では低下の傾向が見られた。腎皮質のCdとCa濃度の相関は、汚染者群で負の相関(r=ー0.346,P=0.031)、非汚染者群で正の相関(r=0.493,P=0.062)を示した。これは、Cd汚染者では腎障害とともに実質細胞が減少し、相対的に間質の増加したことの反映か、Cd作業者にみられる腎結石の増加と関連するものと考えられた。また、非汚染者では、年齢と肝臓(r=0.664,P<0.01)、筋肉中Ca濃度(r=0.661,P<0.05)が有意な正相関と、年齢と肋骨Ca濃度の負の相関(r=0.490,P=0.089)及び肋骨Ca濃度と筋肉Ca濃度の有意な負の相関(r=ー0.817,P<0.01)が見られ、加齢によるCaの骨からの減少に伴う、軟部組織での増加が窺えた。筋肉中のCdとCa濃度及び年齢は両群とも比較的高い相関を示した。即ち、汚染者群では加齢による筋肉Ca濃度の増加傾向は非汚染者と同様に認められるが、そのレベルは非汚染者より著しく低下しているといえる。更に、汚染者では大動脈や肋骨のCd濃度の高いものにCa濃度のかなり低い例が見られた。これらより主にイタイイタイ病及び同要観察者からなるCd汚染者では全身的にCa不足を来していることが示唆された。
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