本研究では、鹿児島湾の環境中の水銀レベルを把握する目的で、鹿児島湾の海水、降下火山灰、雨水と貝類を採集し、各々の総水銀・メチル水銀濃度を測定した。海水は鹿児島大学実習船南星丸を利用し、鹿児島湾の26地点の表層水を、さらに桜島周辺海岸の9地点の表層水を採水した。降下火山灰と雨水は鹿児島大学医学部構内でそれぞれ降灰と降雨時に採取した。貝類は桜島周辺海岸岩礁地帯9地点で採集した。また、鹿児島湾沿岸住民の水銀レベルを把握する目的で、桜島町住民さらに対象としての鹿児島郡三島村硫黄島住民と鹿児島十島村宝島住民の血液と尿を採取した。総水銀の測定は、海水ではジチゾンーベンゼンで抽出の後、貝類および尿は直接硝酸ー過塩素酸ー硫酸を加え湿式分解後、塩化第一スズによる還元気化法で行なった。各地区住民の魚介類摂取量の指標として血清中のイコサペント酸濃度をガスクロマトグラフィ-で測定し、魚介類摂取量と尿中総水銀濃度との関係をみた。桜島周辺海岸の海水中の総水銀濃度は0.6ー7.4pptで、同時に測定した水俣百間港の6.2pptを越える地点もあり、メチル水銀濃度は0.12ー2.2pptで、水俣百間港の0.44ppカより低値で、水俣湯ノ児の0.19pptとほぼ同程度か幾分高値であった。同時に採集した同地点の貝類中の総水銀及びメチル水銀濃度との間に有意の正相関関係がみられ、海水の総水銀及びメチル水銀が生物濃縮されていることが見出された。また、火山灰と雨水からは2.7ー9.3ppbと20.1ー25.5pptの総水銀濃度が検出され、鹿児島湾海水中の水銀の自然界からの汚染源になっていることが考えられた。各地域住民の尿中総水銀濃度は平均値で2.5ppb/gクレアチニンが測定されたが、桜島町住民で硫黄島及び宝島の各住民のそれよりも高値を示し、魚介類摂取量を考慮してもなお高値を示したが有意ではなかった。また、現在の水銀レベルは過去の桜島町住民の汚染レベルではないと判断できた。
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