本研究を遂行するために鹿児島湾を取り巻く環境中の水銀濃度を測定したが、鹿児島湾を取り巻く環境として、海水・火山灰・雨水・土壌・河川底質土・魚介類を選んだ。また、鹿児島湾沿岸住民の魚介類摂取量と尿中水銀レベルを把握する目的で、桜島町住民さらに対象としての鹿児島郡三島村硫黄島住民と鹿児島郡十島村宝島住民の血液と尿を採取した。総水銀の測定は、魚介類はマゴス法で、海水はジチゾンーベンゼンで抽出後、その他は乾燥後、直接硝酸ー過塩素酸ー硫酸を加え湿式分解後、塩化第一スズによる還元気化法で行なった。メチル水銀はECDガスクロマトグラフィ-で行なった。海水中の総水銀濃度は6.3ー19.7pptで、これまでに鹿児島湾海水中の水銀濃度についての坂元(1986)の報告とほぼ同程度であった。また、海水の総水銀濃度はpH値に依存してはいなかった。桜島周辺海岸の海水中の総水銀濃度は0.6ー7.4pptで、同時に測定した水俣百間港の6.2pptを越える地点もあった。メチル水銀濃度は0.12ー2.2pptで、水俣百間港の0.44pptより低値で、水俣湯ノ児の0.19pptとほぼ同程度か幾分高値であった。したがって、鹿児島湾水銀汚染が自然的汚染に加え、一部人為的汚染があることを示した。また、同時に採集した同地点の貝類中の総水銀及びメチル水銀濃度との間に有意の正相関関係がみられ、海水の総水銀及びメチル水銀が生物濃縮されていることが見出された。総水銀濃度は土壌中で6ー128ppb、河川底質土で4ー96ppbであったが、工場のある流域で高く、人家の散在する流域で低い傾向がみられた。また源流付近の水田地帯で高い川もあり、かっての水銀系農薬の水銀が残留していることも考えられた。魚類の総水銀濃度は、依然湾奥産の魚類で高値であったが、魚種間の総水銀濃度の差は、魚類の棲息場所の環境中(海水と底質)の水銀濃度と食性(食餌中の水銀濃度)に依存して生み出されていることが示された。
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