覚せい剤メタンフェタミン(以下MAと略す)常用者が、中毒量以下のMAを摂取しても死亡することが知られている。常用者の心臓には肥大型心筋症の像に類似した変化が認められ、その病変のうち光顕レベルで錯綜配列心筋の分布や拡がりの程度が問題になることが指摘されている。MAによって発生したこの慢性心筋病変を有する者が、MAを摂取して死亡する際、この病的心筋に対してMAがいかなる動態変化を示すかを、特異的抗MAモノクロ-ナル抗体を用いて、免疫化学的に光顕レベルで検索した。一方、心筋のミトコンドリアの膜変化に着目し、電顕による超微免疫組織化学的方法により、ブ-スタ-MAによるミトコンドリア膜の変化を現在病態解析中であるが、以下のような結果を得た。 ラットに種々の量のMAを常用的に腹腔内に投与したところ、5〜10mg/kgで1箇月ころより心筋に虚血性変化並びに心筋症に類似した病変が発生し始めた。このような時期のラットにMAを投与したあと、心臓を採取して、抗MAモノクロ-ナル抗体を用いて、組織中のMAの局在と心筋病変との関係を光顕で観察したところ、虚血性変化のある心筋の周囲に一致してMAが局在する傾向が認められた。このことから、虚血性変化の周囲に再生された毛細血管にMAが分布することにより、虚血性変化が進行する機序が示唆され、さらにこの病変が刺激伝導系に波及することにより急死が起こることが推測された。明瞭な心筋症様変化は認められなかったが、その発生条件について今後検討したい。電顕によるミトコンドリアの膜変化については解析中である。ヒト覚せい剤関連の死亡例の剖検例については、光顕レベルではラットのモデル実験と同様の所見をも認めている。
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