肺臓、副腎および心臓の病理組織学的変化について、ショック状態に陥って死亡した法医剖検事例を中心として検討した。103例の事例を用いた肺臓に関する検討では水腫や出血、うっ血の発生については、死因と特に関連性は認められなかった。しかし、毛細血管内の多形核球(PMN)の出現に関して、各事例ごとに毛細血管内のPMNを数え、PMN数/肺胞数が1以上の事例を陽性として検討したところ、PMN陽性例は、失血、頭部損傷、心タンポナーデ、ショック状態で死亡した事例にそれぞれ18例中10例(56%)、14例中6例(43%)、5例中2例(40%)、20例中11例(55%)と比較的高頻度に認められたのに対して、窒息死例や焼死例はすべて陰性であった。また、いわゆる即死例を除くと、PMN陽性例は鈍力による強い損傷をともなった事例では44例中22例(50%)、刺・切創をともなった事例では7例中5例(71%)に認められた。PMNの増加は受傷後短時間に出現し、法医剖検例において病態を検討するうえで有用な所見になるものと考えられる。死後変化の少ない60例の事例を用いた副腎に関する検討では、副腎皮質の壊死は、頭部損傷、失血、ショック状態で死亡した事例にそれぞれ8例中4例(50%)、13例中4例(31%)、17例中6例(35%)とやや高頻度に認められたのに対して、窒息死例等ではその頻度は低かった。したがって、副腎皮質の壊死もショック状態や失血等に際して、受傷ないしは発症後比較的早期に認められる注目される所見と考えられる。10例のショック状態で死亡した法医剖検例を中心とした心臓に関する検討では、diffuse stainingは10例中7例(70%)に、また、contraction bandsは10例中5例(50%)に認められ、これらの変化も受傷ないしは発症後比較的早期に認められる所見として注目される。
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