研究概要 |
健常な日本人を被験者として,その末梢血からDNAを抽出・精製しアルコ-ル脱水素酵素(ADH)βサブユニットの遺伝子型ならびにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)ALDH2アイソザイムの遺伝子型を調べるとともに,エタノ-ル経口投与実験を行なってアルコ-ル感受性あるいはエタノ-ル代謝能を調べ,両者の結果を比較した. (1)ADH2:遺伝子頻度はβ_1サブユニット遺伝子(ADH2^*1)が0.35,β_2サブユニット遺伝子(ADH2^*2)が0.65であった.日本人剖検肝を用いて得られたADH2表現型から推定される遺伝子頻度(ADH2^*1が0.30〜0.40程度)と当然のことながら矛盾していない.ADH2遺伝子型とアルコ-ル代謝能との間には一定の関係は見られなかった.(2)ALDH2:遺伝子頻度は活性型遺伝子(ALDH2^*1)が0.70,不活性型遺伝子(ALDH2^*2)が0.30であった.被験者の約半数はALDH2^*2遺伝子を有し,彼らは飲酒後顔面の紅潮をきたし,また毛根試料からALDH2アイソザイムの活性が検出されなかった.ヘテロ接合型の者は酵素活性が低くて検出されないため,これまで「ALDH2欠損」型とみなされていた点を考慮すれば,以上の結果は日本人のALDH2表現型とアルコ-ル感受性との従来の比較結果とよく一致する.また,ALDH2^*2遺伝子を有する者では血中アセトアルデヒド濃度は高値を,エタノ-ル除去速度,β_<60>は低値を示し,ホモ接合型ではこれがより著明であった.なお,このことはADH2遺伝子型に拘らずみられた。(3)まとめ:ALDH2^*2遺伝子の存在は,低または無酵素活性により飲酒後血中アセトアルデヒドの著明な上昇をもたらし,これが不快症状をおこすとともにエタノ-ルの酸化そのものにも阻害的に影響するが,ADHの多型はヒトのアルコ-ル代謝能に深い関与はしていない.
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