研究概要 |
血管における動脈硬化の進展は血管の機能や形態異常をきたし,最終的には心筋梗塞,脳梗塞等の内因的急死の原因となる。そこで,動脈硬化が血管におよぼす形態計測学的な観点からヒト脳底動脈を用い検討した。 剖検時に得られたヒト脳底動脈をホルマリン固定後,その横断切片をElastica van Gieson染色し,image analyzer systemを用い内膜,中膜,管腔の面積,内弾性板に囲まれた面積および内弾性板の長さを測定し,これらの測定値から動脈硬化指数としてintimal indexおよび中膜の厚さを求めた。そして,得られた各々のパラメ-タ-に関して相関関係を検討した。 Intimal indexは中膜の面積,管腔の面積と相関を示さなかった。また,intimal indexは中膜の厚さと逆相関を示し,内弾性板に囲まれた面積(血管の大きさを表わす指標)とは正の相関を示した。 これらの結果は動脈硬化の進展にもかかわらず,管腔の面積はせまくならず,正常面積に保たれていることを示している。さらに,この正常な面積は動脈硬化の進展により,中膜の厚さの減少を伴って血管の大きさが大きくなることにより維持されていることを示している。 今回,得られた結果は動脈硬化により血管の内腔が狭容するという一般の通念とは異なるものである。すなわち,動脈硬化の進展にかかわらず,血管が代償性に拡大することにより管腔が狭窄せず,正常に保たれているが,その代償性機能が失なわれると狭窄に転じる可能性がある新たな知見を得た。 血管の脳血流の調節という観点から見ると動脈硬化による形態的変化よりむしろ機能的変化による病態におよぼす影響の重要性が認識される必要性を示唆している。
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