研究概要 |
クモ膜下出血後に生じる脳血管の攣縮は死亡原因につながる重大な一因であるが,その原因は明らかでない。そこで,等尺性張力の測定により,血管攣縮の機序につき機能的な観点から検討した。 剖検時に得られたクモ膜下出血で死亡したヒト脳底動脈を用い,ラセン条片を作成し,その血管条片をKrebsーRinger液の入ったorgan bathに懸垂し,種々薬物による血管の反応性を等尺性張力を測定することによって検討した。 クモ膜下出血で死亡したヒトからの血管条片は,クモ膜下出血以外で死亡したヒトからの血管条片に比べて,内反依存性の他緩反応を示すトロンビン,ブラディキニンおよびカルシウム・イオノフォアA23187による弛緩反応は減弱したが,内皮非依存性の弛緩反応を示すソデュウム・ニトロプルシッドによる反応は減弱しなかった。一方,KCl,ノルエピネフリンおよびセロトニンによる収縮反応は両群で差は認められなかった。 これらの結果はクモ膜下出血後のヒト脳底動脈は内皮依存性弛緩反応の減弱は平滑筋細胞レベルでなく,内皮細胞レベルで生じており,おそらくクモ膜下出血により内皮細胞が損傷され,内皮細胞で合成放出される内皮由来の弛緩因子の減少によってひきおこされるものと考えられる。 今回,得られた結果は動物を使用したクモ膜下出血モデルにおいても,報告されているが,ヒトにおいても同様の現象が生じていることが証明され,この弛緩反応の減弱がクモ膜下出血後の血管の攣縮の原因の一因になっていることが示唆された。
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