研究概要 |
ヒト脳底動脈を用い,動脈硬化により内腔狭窄の程度に関連して,脳底動脈が拡大するのかどうか,またこの拡大により内腔の面積が正常に保たれるのかを形態計測学的な観点から検討した。 内膜の面積および狭窄度(内膜の面積/内弾性板に囲まれた面積×100)は加齢とともに増加した。35才以下の標本では6%以上の狭窄を持った標本は認められなかった。内弾性板に囲まれた面積は狭窄度と正の相関を示した。内腔の面積あるいは中膜の面積は中等性から高度の狭窄度を示す標本において,変化を示さなかった。 これらの結果は動脈硬化を伴った動脈において,動脈径は動脈硬化の程度に関連して増加し,しかも内腔は中膜の薄弱を伴った代償性拡大により維持されていることを示している。 次にこれらの形態計測学的検討を考慮し,クモ膜下出血で死亡したヒト脳底動脈を用い等尺性収縮力を検討した。 クモ膜下出血で死亡した(1日以内)群と脳障害以外で死亡した対照群においてKCl,ノルエピネフリンおよびセロトニンの収縮反応は両群で差は認めなかった。一方,トロンビン,ブラディキニンおよびカルシュウム・イオノフォアA23187による内皮依存性弛緩反応は対照群に比べクモ膜下出血群で有意に減弱していた。しかし,内皮非依存性弛緩反応を示すソデュウム・ニトロプルシッドによる反応は両群で有意差はなかった。 これらの結果はトロンビンおよびブラディキニンによる弛緩反応の減弱は内皮細胞のレベルで生じており,平滑筋のレベルでの関与は少ないものと考えられた。この弛緩反応の減弱はクモ膜下出血後の脳血管攣縮の一因となるものと考えられた。
|