慢性糸球体腎炎は未だに原因が不明であり、一度発症すると不可逆的に進行していずれ腎不全に陥ることが多い。そうなると血液透析や移植などが必要となるが、これは医学的のみならず社会経済的な問題となっている。糸球体腎炎発症の機序としては免疫複合体が流血中あるいは腎内局所で形成され、これが補体を活性化して病変を引き起こすとされているが、免疫複合体を形成する原因抗原に関しては、明らかにされたものはごく僅かで、大部分の糸球体腎炎では未だ不明のままといわざるを得ない。われわれは糸球体腎炎自然発症動物であるMRL/lpr(lpr)マウスを使用して抗原の検索を行なった。方法としては腎炎を発症したlprマウスの血清よりIgGを純化し、FITCでラベルする。これを腎炎を発症したlprマウスに静脈内注射し、18時間後に腎の凍結切片を螢光顕微鏡下に観察した。その結果、投与されたIgGが糸球体内に沈着していることが螢光によって確かめられた。正常マウスのIgGを同様に静注しても腎に沈着は認められないので、lprマウス血中の何等かの抗体活性を持ったIgGが対応抗原と結合して沈着したものと考えられた。このlprIgGを正常マウスに静注しても糸球体には沈着しなかった。次いで我々はこの対応抗原を明らかにするために特異性のはっきりしている抗体を使用して上記の方法で糸球体に沈着するか否かを検討した。この抗体がIgGに対する抗体なわちリウマチ因子であるという説があり、慢性糸球体腎炎に対するガンマグロブリン大量療法の根拠にもなっている。しかしラベルしたリウマチ因子の糸球体への沈着は認められなかった。また、抗1本鎖DNA抗体の沈着に関しても否定的であった。lprマウスの場合は自己抗体が関与している可能性が強いので、主要な血清蛋白であるアルブミン、トランスフェリンなどに関して現在検討中である。
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