研究概要 |
目的:ヒトレトロウイルス感染によって惹起される免疫不全症の病態を解明するために,ヒトT細胞クロ-ンにHTLVーIを感染させ,その機能的変化とメカニズムを明らかにする.方法:単純ヘルペスウイルス特異的CD4陽性およびCD8陽性T細胞クロ-ン,ならびに抗原非特異的細胞障害性を有するT細胞レセプタ-(TCR)γδ陽性T細胞クロ-ンを樹立し,HTLVーI産生細胞と混合培養してそれぞれのHTLVーI感染T細胞クロ-ンを樹立した。これらのHTLVーI感染および非感染T細胞クロ-ンを用いて,細胞障害活性,細胞表面抗原の発現,TCRを介した細胞内情報伝達機構等の変化を観察した。結果:HTLVーIは,CD4陽性およびCD8陽性TCRαβ陽性T細胞ならびにTCRγδ陽性T細胞すべてに対して感染可能であり,プロウイルスDNAの細胞内への組み込みを認めた。これら3種のT細胞サブセットはすべてHTLVーI感染早期よりその細胞障害性を失った。しかし,レクチンを添加し標的細胞に接着させることにより,細胞障害性は回復した。他方,感染後期ではレクチン添加によっても細胞障害性の回復は認められなかった。細胞障害惹起物質であるパ-フォリンの産生を検討したところ,感染早期では細胞質内量に変化を認めなかったが、感染後期には産生が低下していた。細胞表面抗原の発現は,感染早期には全く変化を認めなかったが、感染後期ではCD3ーTCR複合体の発現量の著明な減少を認めた。また,感染後期には,CD3およびTCRに対するモノクロ-ナル抗体添加による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇も著明に低下していた。結論:以上の結果より,HTLVーIは,種々のT細胞サブセットに感染可能であり,少なくとも2段階を経た共通のメカニズムによって機能不全を惹起させることが明らかとなった。現在さらにそのメカニズムを詳細に検討中である。
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