研究概要 |
増殖促進や増殖抑制に伴って肝細胞の核内蛋白をコ-ドする癌遺伝子の発現がどのように変化するか,また蛋白リン酸化がどのように関与するかを解析した。血清でヒト肝癌由来PLC/PRF/5細胞の増殖を刺激すると,cーfosとcーmycが遂次的かつ一過性に発現される。一方で、テレオシジンでこのヒト肝癌細胞の増殖を抑制すると,cーfos mRNAの増加と同時にP53のmRNAを増加させた。けれどもCーmyc RNAレベルは低下した。cーfos蛋白 cーmyc蛋白、P53は細胞増殖や分化の調節に関与することが知られており,これらの遺伝子発現の変化は、血清による増殖刺激やテレオシジンによる細胞分化誘導過程で、何らかの重要な役割を果たすものと推測された。血清やテレオシジンによるcーfosの転写促進は、核内の転写調節因子のリン酸化による活性化と、転写調節領域への結合とによる。テレオシジンはCーキナ-ゼを介して蛋白のリン酸化を促進すると考えられているが,テレオシジンによるcーfosの転写促進はcーキナ-ゼ阻害剤H7では抑制されなかった。従って、テレオシジンによる遺伝子発現の促進には,cーキナ-ゼを介しない経路がある可能性が示唆された。 テレオシジンはPLC/PRF/5肝癌細胞の形態を著明に変化させ,サイトケラチンの重合を促進させた。この変化ECーキナ-ゼ阻害剤H7では抑制されなかった。サイトケラチンは脱リン酸化により重合し,リン酸化により脱重合するらしい。従ってテレオシジンは何らかの機序を介して、サイトケラチンの脱リン酸化を特異的に促進する可能性が示唆される。 細胞増殖の刺激や抑制に関連する蛋白リン酸化の経路はそれほど簡単ではないらしい。今後はそれぞれの核癌遺伝子のリン酸化と脱リン酸化の解析が必要と思われる。
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