肝細胞増殖におけるコンピランス因子の研究

1991 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 02670296
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 橋本 直明 東京大学, 医学部・(付属病院), 助手 (00167579)
• 研究分担者: 渡辺 毅 東京大学, 医学部・(付属病院), 助手 (80158641) ; 池田 有成 東京大学, 医学部・(付属病院), 助手 (80133073)
• キーワード: 肝細胞増殖 / コンピテンス因子 / プロスタグランディン / 受容体 / 情報伝達系 / 初代培養肝細胞 / 類洞壁細胞 / 肝再生

研究概要

近年、初代培養肝細胞を用いて肝細胞増殖の研究が進み、肝細胞の増殖を促進して肝再生で働らくと考えられる因子が見つかっている。しかし、肝再生に関与する因子は複数と考えられ、特に肝再生のトリガ-となる因子の研究は遅れている。線維芽細胞の増殖の研究からは、二種類の増殖因子、即ち静止期細胞に作用して増殖因子に感受性にするコンピテンス因子と、その後作用してDNA合成を誘導するプログレッション因子が報告された。肝細胞増殖では生理的なコンピテンス因子が知られておらず、静止期細胞に作用して細胞を増殖因子に感受性にするという点からは、コンピテンス因子こそが肝再生のトリガ-である可能性がある。
研究代表者らは、初代培養肝細胞のプロスタグランディン(PG)E_2受容体数が、部分肝切除後数時間のうちに減少することを発見し、これを、肝切除後早期から高濃度のリガンドに被曝したための、受容体のdown regurationと結論した。これは、in vivoでPGE_2の合成が部分肝切除後亢進し、術後数時間以内に肝細胞に直接作用したことを示す。
更に、PGは無血清で初代培養した肝細胞の、インスリンと上皮成長因子に対する感受性を増強することによって増殖作用を発揮することを明らかにした。PGE_2で最も強いこの作用は、肝細胞表面のPGE_2に立体特異性をもつ受容体、及び百日咳毒素感受性G蛋白を介して発現され、PGF_2αも高濃度でPGE_2受容体と交差結合することで同様の作用を発揮した。またこれらのPGの作用の一部は細胞内カルシウム濃度の上昇による可能性が示唆された。しかし、PG自体はDNA合成を促進させなかった。また、分離培養した類洞内皮細胞がPGE_2を分泌することが分かった。
以上、PGE_2は、PGE_2受容体、百日咳毒素感受性G蛋白、細胞内カルシウム濃度の上昇を介して、肝細胞の増殖因子感受性を高め(コンピテンス因子)、部分肝切除後の肝再生のトリガ-として作用すると考えた。

研究成果

• [文献書誌] Hashimoto N,Watanabe T,Ikeda Y,Toda G,Yamada H,Yoshikawa Y,Mitsui H and Kurokawa K: "Downーregulation of prostaglandin E_2 receptors in regenerating rat liver and its physiolgical significance" Biochem,Biophys,Res,Commun,. 176. 226-232 (1991)
• [文献書誌] Hashimoto N,Watanabe T,Toda G,Ikeda Y,Yamada H,Yoshikawa Y,Mitsui H,and Kurokawa: "Prolifera effects of proscoglanders on DNA synthens in primary rat hepatoyte"
• [文献書誌] 橋本 直明,戸田 剛太郎,池田 有成,渡辺 毅,山田 春木,光井 洋,吉川 雄二,満 浩憲,柏木 万寿男,黒川 清: "ラット再生肝細胞のプロスタグランディン(PG)E_2受容体のdown regulationとその意義" 肝臓. 32. (1991)