研究概要 |
ハムスタ-膵臓癌由来培養細胞系H_2PーT1の増殖と分化に与える各種消化管ホルモン,増殖因子,細胞外基質の影響を検討した。形態学的には,位相差顕微鏡,ABーPAS染色による光学顕微鏡的観察,電子顕微鏡的観察によって行った。機能的分化に関しては,レクチン染色による糖蛋白の局在を半定量的に評価した。増殖動態に関しては,BrdU連続標識法により細胞世代時間,DNA合成時間,増殖分画などを評価した。結果としては,各種消化管ホルモン(セクレチン,コレシストキニン等)、ステロイドホルモン(エストロジェン,コルチコステロイド等)の添加によって,H_2PーT1の分化,増殖は有意の影響を受けなかった。また,種増殖因子(EGF,FGF等)の添加によっても一定の傾向は認められなかった。細胞外基質の添加による影響の検討では,コラ-ゲンタイプI,タイプIV,ラミニン,フィブロネクチン等の単独添加によっては有意の変化は認められなかった。マウスEHS肉腫由来の基底膜成分であるマトリゲルを添加し培養したところ,形態的には三次元構築を件う増殖と腺腔形成が光顕,電顕的に観察され,レクチン組織化学により糖蛋白合成の増加が観察された。BrdUによるDNA合成の検討では,マトリゲルとの接触により増殖分画の明らかな減少と細胞世代時間の延長が認められた。この事実は,複数の細胞外基質の混合物であるマトリゲルは,H_2aPーT1細胞の分化を誘導し,増殖を抑制したことを示す。続いて,ヒト膵癌細胞系3種を用いて同様の検討を行った。各種ホルモンおよび増殖因子の添加では,形態,増殖に対する影響は各細胞系によって異っており,一定の傾向は把握できなかった。マトリゲルの添加により,HuPーT1,HuPーT4の2種の細胞はH_2PーT1と極めて類似したパタ-ンの増殖抑制と形態変化が観察され,ヒト膵癌細胞も同様に分化誘導されることが示された。
|