我々の確立したゴールデンハムスターおよびヒト膵癌実験モデルを用いて検討を行い、以下の成績を得た。1.細胞基底膜物質(MATRIGEL^<TM>)に細胞を接着して培養することにより、形態学的には、in vitro での三次元的腺腔構造の形成が光顕的、電顕的に確認され、同時にゴルジ装置の増加など、機能的分化誘導が推定される所見が得られた。またBrdUを用いた細胞動態解析の結果、細胞基底膜物質は、明らかに膵癌細胞の増殖を抑制し、これは主として増殖分画の減少と、細胞世代時間の延長によるものであることが確認された。これらの細胞基底膜物質による分化誘導現象は、ハムスター、ヒト両種由来の細胞において共通して認められた。2.各種消化管ホルモン、ステロイドホルモン、各種細胞増殖因子の添加による、増殖、形態の変化は、膵癌細胞の種類により異なっており、一定の傾向は認められなかった。3.基底膜物質と膵癌細胞の接触による分化誘導に伴い、細胞接着構造としてのギャップジャンクションが増加していることが、電子顕微鏡的観察および蛍光色素細胞内注入法により証明された。また、この際細胞内セカンドメッセンジャーとしてのカルシウムイオン、cyclic AMPの定量では、一定の傾向が認められず、どのような細胞内コミュニケーションにより、分化の誘導が調節されているのかに関しては、結論を得るに至らなかった。4.in vitroで基底膜物質により分化誘導されたハムスター由来の膵癌細胞を、同系動物に移植して in vivoでの増殖を観察すると、コントロールの細胞との有意差は認められなっかた。これは、基底膜物質による分化誘導が可逆性であることを意味していると思われた。5.本研究において得られた知見は、膵癌の細胞生物学的特徴を明らかにする研究の推進に、多大に貢献するものと思われる。今後、膵癌細胞に同じような分化誘導、増殖抑制を起こし得る液性物質の探求が必要と思われる。
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