これまでは私達は老齢(24ケ月齢)および成熟ラット(2ケ月齢)の肝臓から細胞表層膜蛋白質を調製し、細胞密度差で培養した両肝細胞系にこれら膜蛋白質を添加し、それぞれの肝機能に与える影響を比較検討してきたその結果、高細胞密度で培養した時には両者の機能にはあまり大きな差は認められなかった。しかし、低細胞密度差で培養時には(1)グルカゴン誘導による脂肪酸合成能の低下が、老齢肝で見られた(2)胆汁酸合成のうち、グリシンおよびタウリン抱合胆汁酸比(G/T)が老齢肝で高値であるが、肝細胞膜蛋白質を添加すると、その濃度差に依存してその比は低下、即ちタウリン抱合能が昇上し、高細胞密度培養時の値に近くなった。しかし、老齢肝細胞では成熟肝細胞に比較してその傾向は弱かった。そこで、老齢および成熟ラット培養肝細胞系にペロオキシゾーム活性誘導剤(クロフィブレート等)を投与後、コリール-CoA、タウリンおよびグリシンを添加して培養すると、老齢肝では胆汁酸の抱合能が低いことからペルオキシゾーム活性が成熟肝より低いことが示唆された。(3)両培養肝細胞系に放射標識デスモステロールを添加培養後、培養液及び培養細胞からの脂質を薄層クロマトで分離定量すると、老齢肝では成熟肝に比較して遊離型コレステロールおよび胆汁酸への変換量は低下するものの、エステル型コレステロールは増加した。(4)デキサメサゾンによる胆汁酸のヒドロキシル化、硫酸抱合化およびアミノ酸抱合能を検討したところ、ジヒドロキシ胆汁酸のタウリン抱合能、デオキシコール酸からの3位での硫酸抱合化、6βおよび7α位でのヒドロキシル化が成熟肝では増加するが、老齢肝では低かった。この時の6βヒドロキシル化はシクロヘキシミドで阻害された。これら(2)-(4)の結果から、臨床で老齢時にコレステロール胆石症が多く見られる理由の一つではないかと考えられる。 これらの低細胞密度培養時の老齢肝細胞機能の減少は加齢と共にある種のホルモンレセプター機能が低下しているためかあるいはホルモンのタイプに依存するのか今後さらに検討する必要がある。
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