老齢(24ケ月齢)および成熟ラット(2ケ月齢)から肝実質細胞を分離し、その細胞密度差による初代培養肝細胞系における各種ホルモンによる肝細胞機能への影響あるいは細胞間の接触を促進する肝細胞表層膜蛋白質をそれぞれの肝臓から分離し、その性質を比較した。その結果、高細胞密度培養時には両者に大きな差は認められなかった。しかし、老齢肝細胞の低細胞密度培養時には(1)グルカゴンによる脂肪酸合成能の低下(2)インスリンとEGF存在下での、ノルエピネフリンによるDNA合成能の低下(3)放射性デスモステロールからのエステル型コレステロールの変換量の増加および胆汁酸と遊離コレステロールへの変換量の低下(4)培養肝細胞をクロフィブレート(ペルオキシゾーム誘導剤)で処理後は胆汁酸抱合能は低下することから、老齢肝のペルオキシゾーム活性は低い可能性が示唆された(5)デキサメサゾンによる胆汁酸の6βおよび7α位のヒドロキシル化、グリシンおよびタウリン抱合能の低下が認められた。さらに、(6)老齢ラット肝細胞膜から非イオン性界面活性剤と塩酸グアニジンで可溶化した膜蛋白質のゲル濾過法および電気泳動法による分子量は約85万であり、成熟ラットの約67万より大きく、WGAレクチンに対する親和性に差が見られる。また、その活性発現にはカルシウムイオンが必要であった。(7)高細胞密度では24時間培養後のEGFレセプターのScatchard分析を行うと、老齢肝(Kd=5.1×10^<-10>M)、成熟肝(Kd=4.7×10^<-10>M)とほとんど同じであった。しかし、低細胞密度で24時間培養後の老齢肝(Kd=1.6×10^<-9>M)、成熟肝(Kd=7.8×10^<-9>M)と明らかに差が認められた。 この様な現象は加齢と共にこれらホルモンレセプター機能が低下しているためか、あるいはホルモンのタイプに依存するのではなく、むしろ細胞自身の活性に依存する事が考えられる。これらの事から、細胞密度依存性の調節機構は遺伝子転写の調節を含めて核に依存する事が考えられる。
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