スキルス胃癌は、癌細胞のびまん性浸潤と間質の著明なコラ-ゲン増生を特徴とする。本研究では、癌細胞の産生する間質誘導物質、すなわち、Paracrineの機序で線維芽細胞に作用してそのコラ-ゲン合成を高める物質のTransforming growth factorβ(TGFーβ)に注目しスキルス胃癌組織におけるその発現と活性化の機序を検討した。TGFーβがスキルス胃癌細胞株で分泌されるかどうかを各種胃癌細胞で検討した。スキルス胃癌由来細胞株4種(KATOIII、JRー1、OCUMー1、HSCー39)、非スキルス胃癌由来細胞株3種(TMKー1、MKNー28、MKNー45)のうち、スキルス胃癌由来株4種すべてと非スキルス胃癌由来株1種(TMKー1)の培養上清(CM)中にTGFーβ活性をみとめた。中でもスキルス胃癌KATOIIIのCM中のTGFーβ活性が最も強かった。一般に、不活性型TGFーβは酸処理により活性型になるが、KATOIIIのCMは酸処理をせずとも濃度依存性に軟寒天培地中におけるNRK細胞のコロニ-形性能(TGFーβ活性)を示した。このCM中のTGFーβ活性は抗TGFーβ抗体で抑制された。また酸処理してもTGFーβ活性の増強はなかった。以上から、KATOIIIのCM中のTGFーβは活性型で存在すると考えられた。一方、KATOIII細胞内のTGFーβはWestern blotでは、酸処理で抽出したものは約13KD(活性型)であったが、中性条件下で抽出したものは約50KD(TGFーβ前駆体に相当)であったことから、不活性型で存在すると推定された。そこで、KATOIIICM中のTGFーβの活性化の機序を検討する目的で、CMをHPLCで分析すると、Void volumeと分子量約2万の位置にTGFーβ活性を認めたほかに、分子量約7万の位置に不活性型TGFーβを活性型にする因子の存在を認めた。この因子は熱、酸、トリプシン、プロテイナ-ゼインヒビタ-で失活することから何らかのプロテイナ-ゼと考えられた。現在、本因子の精製・抽出を試みている。 一方、スキルス胃癌の特徴の一つにsparseな癌細胞の浸潤があげられるが、我々はこの特異な浸潤の機序の一つとして、細胞間接着物質E型カドヘリンの欠如ないしは減少を想定している。スキルス胃癌におけるカドヘリンの発現と浸潤能との関連を明らかにする目的で、E型カドヘリン発現ベクタ-(pBATEM_2)をKATOIII(カドヘリン未発見)に遺伝子導入した。その結果、pBATEM_2導入KATOIIIは124KDのE型カドヘリンの発現が確認され、細胞どうしの接着性が亢進していた。今後、in vitroおよびin vivoでのinvassion assayを行う予定である。
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