スキルス胃癌の間質増生におけるTGFーβの意義を解明する目的で、スキルス胃癌細胞株から活性型TGFーβの分泌を明らかにし、その活性化の機序を検討した。スキル胃癌細胞株KATOIIIのconditioned medium(CM)中には強いTGFーβ活性が認められたが、酸処理をしてもTGFーβ活性に変化がみられず大部分が活性型で存在した。このKATOIIIのcell lysate中のTGFーβ活性は未処理では検出されず、酸処理により強いTGFーβ活性が検出された。また、KATOIII由来のTGFーβの分子量はTGFーβ前駆体に相当する約50kDaであった。従って、KATOIII由来のTGFーβは細胞内では不活性型で存在し、細胞外に放出された後に活性化されると推察された。このKATOIIIのCMをHPLCで分析したところ、分子量約6ー7万の位置に不活性型TGFーβを活性型に変換する因子が存在した。この因子は、熱、酸、trypsin、各種serine protease inhibitorで失活したが、α_2plasmin inhibitorや他のprotease inhibitorには安定であった。以上より、スキルス胃癌由来細胞KATOIIIは不活性型TGFーβとともにそれを活性化するplasminとは異なる種のserine proteaseを産生、放出し、細胞外で活性型TGFーβに変換することが示唆とされた。一方、スキルス胃癌におけるカドヘリンの発現と浸潤能との関連を明らかにする目的で、E型カドヘリン発現ベクタ-(pBATEM_2)をKATOIIIに遺伝子導入し、その接着性、浸潤性に与える影響を検討した。KATOIII細胞はWestern blotでカドヘリンの発現を認めなかったが、pBATEM_2導入KATOIIIは124KDのE型カドヘリンの発現が確認され、しかも細胞どうしの接着性が亢進していた。さらに、in vitroのdouble chamberを用いたinvasion assayにおいてその浸潤性は低下していた。従って、スキルス胃癌ではカドヘリン発現の低下が細胞間接着機構を失なわせ、癌細胞の細胞塊からの遊離をうながし浸潤、転移を起こしやすい状態にすると考えられた。
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