研究概要 |
B型肝炎ウイルスは、その宿主ゲノムと比べて約一万倍も進化速度が速いと考えられており、多くの抽出された各ウイルス株間で平均約10%前後の塩基配列の差が認められている。この遺伝子配列の差とウイルス株の病原性との関連について明らかにしていくことを目的に、まず標的抗原と考えられる遺伝子の変異についてコンピュ-タをもちいて,解析した。現在までに報告されているB型肝炎ウイルス27株のDNA遺伝子配列をもちいて、各ウイルス株間での相同性について各遺伝子ごとに検討した。各ウイルス株の血清学的サブタイプと、ウイルス遺伝子の分子進化学的系統樹からの遺伝学的分類を比較したところ必ずしも一致していなかった。したがって、サブタイプによってその病態の予後が異なるとされている従来の報告は再検討の余地があると考えられた。さらに慢性B型肝炎における宿主T細胞の標的抗原の一つと考えられるC遺伝子について、そのDNAおよびアミノ酸配列の変異を検討した。慢性肝炎の急性増悪期前後の血清から抽出されたウイルス遺伝子のPCR法によるC遺伝子の解析の結果、大きなDNAの欠損がみられる例が多いことがわかった。したがって、C蛋白の変化と病態の変化がなんらかの関連を持つことが推測された。さらにこの点については、この欠損蛋白の発現等により標的抗原決定部位と一致するかどうかを現在検討中である。また、もうひとつの標的抗原と言われているS抗原蛋白についても同様な検討を加え、遺伝学的分類によるウイルス株特有のアミノ酸配列をつきとめ、その配列による合成ペプタイドを作成した。このペプタイドを現在家兎に免疫し抗血清を作成中であるが、これらをもちいて総合的に病態との関連を追求して行くことが重要であると考えた。
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