グルタチオンSートランスフェラ-ゼ(glutathione Sーtransferase 以下GSTと略)は肝をはじめ広く生体内に存在し、発癌物質を含む内因性および外因性異物と還元型グルタチオンとの抱合を触媒する解毒酵素である。最近、ヒト胎盤由来の酸性GSTーπが肝悪性腫瘍組織中に増加していると報告され、その腫瘍マ-カ-としての意義が注目されている。しかしその腫瘍特異性についてはまだ一定の見解が得られていない。一方ラット初代培養肝細胞(72時間)においてヒトGSTーπに対応するGSTーpが増加してくるとの報告があり、培養系の酵素学的特性が注目されている。しかし培養肝細胞におけるGSTアイソザイムの変化を長期時間追跡した研究はない。本研究では、ヒト原発性肝癌を対象として塩基性GSTーαと酸性GSTーπのいずれが肝細胞癌、胆管細胞癌に特異的であるかを免疫組織化学(PAP)の手法により検討した。またラット肝細胞をコラゲナ-ゼにて分離後168時間培養し、経時間にGSTの総活性を測定し、塩基性GSTーYa、中性GSTーYb_1、酸性GSTーYpの変化を免疫細胞化学の手法により検討した。成績:1)正常肝ではGSTーαは肝細胞の細胞質に均一に陽性を示し、胆管上皮細胞には陰性で、一方GSTーπは胆管上皮細胞の細胞質に陽性を示し、肝細胞には陰性であった。2)肝細胞癌28病変ではGSTーαは60%に陽性を示し、高分化な例で陽性率が高かったが、GSTーαは全例陰性であった。胆管細胞癌10病変ではGSTーπは80%に陽性を示した。3)腫瘍類似病変で按る腺腫様過形成の3例中2例でGSTーπが陽性を示した。4)培養肝細胞のGSTの活性は48時間後一旦低下し、120時間後には回復し、以後再び低下した。5)培養肝細胞のGSTアイソザイムのうちYaは特続的に陽性、Yb_1は漸次増加を示した。
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