研究1 アデノシン受容体拮抗剤であるテオフィリンの脳組織酸素化および酸塩基平衡に及ぼす影響を6名の健常成人を対象に検討した。動脈と内径静脈にカテ-テルを留置し、室内気吸入時、低酸素ガス吸入時に常用量のテオフィリン静止注前後で同時採血をした。同じレベルのPaO2に対して内径静脈酸素分圧は3ー5mmHg、酸素飽和度は6ー10%低下した。一方、内径静脈炭酸ガス分圧とpHは動脈でみられた変化(PaCO2は約2mmHg低下、pHは約0.01ー0.02上昇)とは対照的に全く変化がなかった。これらの結果は、テオフィリンの換気刺激作用のメカニズムを考える上で重要な情報を与え、かつまたテオフィリンの脳組織酸素化に対する副作用に関して臨床的な警告を与えるものである。 研究2 ヒトの低酸素換気応答における内因性アデノシンの役割を明らかにする目的で健常成人9名を対象に、ジピリダモ-ルあるいはプラセボ静注後、低酸素換気応答(isocapnic progressive hypoxia and subsequent hypoxia:SaO2=80%で20分間維持)を二重盲検法によって調べた。さらに、そのうち4名ではアデノシン受容体拮抗作用を有するテオフィリンを前投与して同様の実験を繰り返した。急性の低酸素換気応答値はジピリダモ-ルにより有意に増大したが、テオフィリンによりその効果は消失した。低酸素持続負荷中にはプラセボ投与時でも換気量がピ-ク時に比べて有意に低下し、ジピリダモ-ルはその傾向をさらに強めた。しかし、テオフィリン前投与によりその効果は打ち消された。以上の結果より、ヒトの低酸素換気応答には内因性アデノシンが関与しており、末梢性の換気刺激効果と中枢性の抑制効果の両者を修飾している可能性が示唆された。
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