研究概要 |
我々は、先に非免疫学的現象であるWaller変性によって主要組織適合複合体(MHC)ClassII(Ia)抗原陽性のミクログリアが誘導されることを見い出した(J.Nueoimmunol.,1989)。今回我々はこの非免疫学的に出現したIa抗原陽性ミクログリアがどのように免疫学的事象と関わり合いを持つかについて検討した。 Lewisラットを麻酔下に、大脳皮質の背外側領域のcold lesionを作製、或は片側眼球を摘出した後、3,5,10日目にEAE細胞を移入した。すなわちモルモットのMBPで感作したLewisラットから脾細胞を採取し、MBPと共に3日間培養、2ー4x10^7の細胞を心腔内に注入した。細胞移入後2ー21日目にそれぞれ潅流固定し、浮遊切片或はパラフィン切片にて免疫染色(ABC法)および一般染色を施し、観察した。対照として正常ラットの脾細胞をMBPを添加せずに培養し、同様に移入した。一次抗体として、抗Ia抗体(OXー6)、抗T細胞抗体(W3/13、OXー8)、抗ミクログリア抗体(OXー42)を用いた。感作後5ー14日目のラットにおいて、通常認められるEAE病巣の他に、Waller変性の部位に一致して炎症細胞浸潤が認められた。すなわちcoldlesion例では視床領域に、片側眼球摘出例では対側の視索、上丘に、Ia抗原陽性ミクログリアの集積領域に一致して、単核球を主体とする著明な細胞浸潤が認められた。これらの単核球にはW3/13またはOXー8陽性Tリンパ球が含まれていた。 以上の実験結果は、Waller変性によって非免疫学的に誘導されたIa抗原陽性ミクログリアが中枢神経内の一連の免疫反応を惹起せしめるトリッガ-となりうることを示したものであり、免疫神経疾患と考えられている多発生硬化症の発症あるいは再燃の機構を考える上で重要な現象であると思われる。
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