研究概要 |
近年増加しつつある脳血管性痴呆の病態を明らかにする目的で砂ネズミの両側総頚動脈を銀製クリップ(直経0.1×1.0mm,長さ1.0mm)を用いて永久狭窄し,脳エネルギ-変化,脳血流量変化,組織学的変化,学習能力変化を検討した。脳エネルギ-代謝測定には現有の生体計測NMR装置(JEOL JNMGX270,6.34テスラ)を用い平成2年度補助金にて購入したデ-タ処理装置(Epson386M)を接続してスペクトル処理を行った。学習能力は群大式能動的条件回避装置を用いて検討したが,このデ-タ処理にも上述のデ-タ処理装置を用いた。実験には生後4ー6ヵ月の成熟雄砂ネズミ64匹を用い,ネンブタ-ル麻酔下にて両側総頚動脈を狭窄した。狭窄後32%の動物は神経症状を示し,48時間以内に死亡した。他の68%は無症状であった。脳血流量は36%の動物では0.20ml/g/分以下に低下し,他の64%では0.21ml/g/分以上に保たれた。狭窄後の ^<31>P NMRスペクトロスコピ-では32%の動物がエネルギ-障害,著明な細胞内アシド-シスを示し,これらの動物は48時間以内に死亡した。他の68%はエネルギ-障害,アシド-シスを示さず,狭窄1日後,1週後,1ヵ月後においても正常スペクトルを示した。組織学的検討では狭窄1日後には虚血性変化は見られなかったが,狭窄1週間後には44%の動物において線状体,大脳皮質,視床等の多発性梗塞が認められた。狭窄1ヵ月後,3ヵ月後には50%,55%の動物において同様な多発性梗塞と著明な脳萎縮が認められた。また狭窄1ヵ月後,3ヵ月後に行った能動的条件回避学習では多発性梗塞動物において学習能力低下が見られ,その程度は狭窄3ヵ月後においてより著明であった。本実験結果は慢性的な脳低潅流が多発性梗塞,脳萎縮を惹起する可能性があることを示唆しており,その結果として学習記憶障害が起こりうることを示唆している。
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