研究概要 |
脳血管性痴呆の病態生理を実験的に検討する目的で砂ネズミの総頸動脈を慢性的に狭窄し,脳血流量,エネルギ-状態,脳組織,学習能力等の変化を検討した。エネルギ-状態評価には生体計測 ^<31>PーNMRスペクトロスコピ-を用いた。実験1では内径0.1×0.1mm,長さ2.0mmの銀製クリップを用いて狭窄を作成した。狭窄後,脳血流量は40%の動物では0.20ml/g1min以下に低下し,他の60%ではそれ以上のレベルに維持された。狭窄後,40%の動物はエネルギ-障害を示し4日以内に死亡したが,他の60%はエネルギ-障害を示さず虚血症状も示さなかった。これら無症状動物の脳組織は狭窄1日後には変化がなく,5日後,4週後,3カ月後にそれぞれ40%,53%,60%の頻度で虚血性変化を示した。狭窄4週後,3カ月後では細胞壊死を主体とする散在性小病変が大脳皮質,線条体に見られ,これらの動物は学習記憶障害を示した。実験2では内径0.28ー0.58mmのポリエチレンチュ-ブを用い高度,中等度,軽度の狭窄を作成した。高度狭窄群では1時間後よりエネルギ-障害が見られ全例が24時間以内に死亡した。この群の頸動脈は血栓により閉塞されていた。中等度狭窄群ではエネルギ-障害は見られなかったが,狭窄1カ月後に70%の動物に虚血性変化が見られた。その一部は一側大脳半球の大梗塞または多発性小梗塞であり,頸動脈狭窄部に内膜肥厚,血栓附着が認められた。残る動物では細胞壊死を主体とする散在性の小病変が大脳皮質,線状体,海馬に見られ,頸動脈狭窄部の二次的変化はなかった。軽度狭窄群の脳には明かな変化は見られなかった。本実験に認められた散在性の小虚血病変は狭窄1週間以後に出現し動物に学習・記憶障害をもたらすことが特徴的である。その出現機序には慢性低灌流が関与する可能性が高く,血管性痴呆の病態生理,メカニズムを考えるうえで重要であると思われた。
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