糸球体病変はその原因が何であれ最終的には糸球体硬化という共通の形態をとり機能が廃絶する。この糸球体硬化の発症と進展に糸球体内の静水圧の上昇または漏過の亢進という微小循環が重要な役割を演じていることがマイクロパンクチャー法で示されている。本研究では、糸球体微小循環が糸球体前後の細動脈の血管抵抗と全身血圧により調節されていることに注目し、血管の鋳型標本を用いて、糸球体硬化と腎細動脈内径の関係を検討した。また、鋳型標本で得られた知見をさらに生体内で確認するため水腎症モデルを使って直視下に腎微小循環を観察した。このように本研究は形態と機能の両面から腎細動脈と糸球体硬化の関係を統合的に検討することに特徴がある。 心房性ナトリウム利尿ペプチドやノルエピネフリンに投与した時の腎機能の変化と細動脈内径の変化が平行すること、また鋳型作製の段階での細動脈内径の変化が一定の条件下ではほとんど無視し得ることを示した。これは鋳型標本により細動脈を検討することの信頼性が充分あることを示している。高血圧自然発症ラット、ストレプトソトシン糖尿病ラット、ラット腎全全描モデル、抗糸球体基底膜抗体腎炎など様々な糸球体疾患モデルで、細動脈内径と糸球体障害(硬化)の関係が確認された。これは糸球体微小循環が糸球体障害の進展に重要な役割を担っているとの考えを支持する結果であった。しかし、アンシオテンシン変換酵素阻害薬、カルシュウム拮抗薬あるいは利尿薬などの投与による検討では、循環動態以外の因子も糸球体硬化の進展に重要な働きをしていることが示唆された。水腎症モデルでは方法を確立するのに予想以上に時間がかかり、病態モデルでの検討までは至らなかった。しかし、正常血圧および高血圧ラットで各種のカルシュウム拮抗薬その他の血管作動物質の細動脈作用を直接観察することが出来た。今後、引続き検討を加えたい。
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