研究概要 |
拡張型心筋症の進行過程における病態生理を解明し,その治療上の対策を見いだすことを主眼とし基礎的並びに臨床的研究を行なった.1)基礎的研究:心筋症ハムスタ-を用い,各週令に摘出した心臓をプロテア-ゼ阻害剤の存在下に遠心分離して細胞膜画分と細胞質画分を得,これらを用いてβーアドレナリン受容体,GTP結合蛋白質(Gー蛋白質),アデニ-ル酸シラク-ゼ活性(AC活性)を測定すると同時に病理組織標本を作製して細胞内の微細な変化を調べた.また潅流心を用いて ^<31>PーNMRスペクトロスコピ-を測定し心筋エネルギ-代謝の変化を調べた.心筋症ハムスタ-の無治療群では,β遮断剤,Ca^<2+>ブロッカ-投与群に比して心不全症状の出現が早い傾向を示した.薬剤投与1ヶ月後,3ヶ月後のハムスタ-から心臓を摘出し細胞膜画分と細胞質画分に遠心分離し,ー80℃にて凍結保存した.6ヶ月後のサンプル作製後に受容体,Gー蛋白質,AC活性などを同時に測定する予定である.2)臨床的研究:拡張型心筋症症例に対してβ遮断剤やCa^<2+>ブロッカ-を投与して血中カテコラミン,レニン,アンギオテンシン,心房性Na利尿ホルモン(ANP),バソプレッシン,心筋遊離蛋白質ミオシン,プロコラ-ゲンIIIペプチド(P III P)を経時的に測定した.さらに経過中に心エコ-,ラジオアイソト-プ検査(RI法)や運動耐容能検査などにより総合的評価を行なった.我々がすでに報告してきたようにβ受容体は心筋症の進行と共にその数を減らした(down regulation)が,β遮断剤の投与により受容体数の回復をみた(up r'egulation).Ca^<2+>ブロッカ-の投与でも受容体数の改善を認めたが,β遮断剤ほどの効果は期待できなかった.心エコ-やRI法などの画像診断や運動耐容能検査は,β受容体の回復と共に改善傾向を示した.一方,血中の各種指標のうちANPのみが心筋症の進展による心不全症状の出現に応じてその血中レベルを増加させた.また我々が心筋梗塞の進展に有用であると報告したミオシンやP III Pは今回の症例では有意な増加を示さなかったが,恐らく測定機器の問題と考えられた.
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