脳利尿ペプチド(BNP)は最初ブタ脳より単離されたが、最近、我々はヒトBNPを単離・構造決定し、Radioimmunoassay法を確立した。心不全患者で、ANP、BNP共血中濃度が上昇するが、BNPの方がより著明である。そこで、ANP、BNPの特異的モノクロ-ナル抗体を用いて免疫組識化学的手法により、(1)ブタ心房心筋細胞内の微細レベルでの局在を二重免疫電顕で検討、また、(2)ヒト生検心におけるBNPの心室内発現を検討した。対象と方法:(1)ブタ心房の超薄切切片を作製、ANPを5nm、BNPを10nmの免疫金コロイドで標識し、二重染色を施行した。(2)心臓手術時に得られた右心耳標本、心内膜下生検標本(拡張型心筋症(DCM)と正常対照)を特異的モノクロ-ナル抗体を用いて染色した。結果:(1)ANPとBNP反応陽性金コロイドは心房筋細胞内の特異的顆粒にのみ存在していた。特異的顆粒はANPのみを含むtype1とANPとBNPが共存するtype2に分類できた。内膜側心房筋細胞ではtype2が多く、外膜側心房筋細胞ではtype1が多かった。(2)右心耳ではほぼすべての心房筋細胞がANPに陽性であったが、BNPは内膜側の一部の心房筋細胞において陽性で他は陰性か弱陽性であった。生検心の正常対照例ではANP、BNP共全例陰性であった。DCM左心標本では、全例BNP陽性であり、標本におけるBNP陽性細胞率は左室駆出率と負の、左室収縮末期容積および左室拡張末期容積と正の相関関係を認めた。これらの所見はANPとよく合致していた。考察:心房筋は個々の細胞が2つのホルモンを産生する多ホルモン性でmultipotentialな細胞集団である可能性が示唆された。また、ヒト心不全時のBNPの血中濃度の増加にはその源として心室が重要であると思われた。
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