心筋梗塞後の心筋のexpansion、並びにそれに伴う心不全の出現に及ぼす種々の因子を検討する目的で以下の実験を行なった。実験対象としてはすべてラットモデルを用い、あらかじめ行なった手術により、覚醒下に冠動脈閉塞並びに任意の時間において再潅流を行なった。 1.心筋梗塞後のexpansionの出現過程に対する検討:心エコー法を用い、in situ heartにおけるexpansionの出現過程を経時的に検討した。Infarct expansionは冠動脈結紮直後より出現し、以降7日目まで経時的にその程度が増加した。全変化の75%は24時間以内に出現した。冠動脈結紮15分以内の早期再潅流によりexpansionは可逆性変化を示し、その可逆性の有無は心筋壊死出現の有無に依存していた。 2.再潅流のexpansionに及ぼす影響:expansionの程度は冠動脈閉塞7日目に摘出した病理標本心にて検討した。1時間の再潅流は心筋梗塞サイズを減少させ、expansionを抑制した。6時間における再潅流では心筋梗塞サイズは不変であり、有意なexpansionの抑制は見られなかった。しかしながら、壊死心筋の吸収の促進が認められ、晩期再潅流は梗塞心筋の治癒過程を促進すると考えられた。 3.expansionに及ぼす種々の負荷の検討:アンジオテンシンII受容体(AT1)拮抗薬剤の投与のより、梗塞サイズは不変であるが、expansionは抑制されることが判明した。dobutamineにて心収縮力を増加させるとexpansionが増加する傾向が認められた。 4.高血圧に伴った心肥大がexpansionに及ぼす影響:SHRラットでは著明な高血圧にもかかわらず、WKYラットと比べexpansionは抑制されており、心肥大はexpansionを抑制することが示唆された。
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