マウスのMenkes病であるbrindled mouse hemizygote(BM)はヒトのMenkes病の秀れたモデルである。BMは普通に飼育すると生後15日前後で必ず死亡するが、生後7日目に10μg/g(体重)のCuCl_2を1回皮下注射することにより劇的に延命し、正常同胞と同等の生活と寿命をもつに至る。本研究の目的は、この様なBMの治療前と後を調べることによって脳障害の発症機序を明らかにし、治療法を開発することである。脳障害の機序をさぐる為に、未治療BM群の大脳、小脳の組織学的変化、cytochrome oxidase(CyO)の活性、及び組織銅濃度を調べた。その結果、7日令を過ぎる頃からミトコンドリアの進行性の変性にもとづく神経細胞死が認められること、正常対照群でみられる日令の増加に伴う銅濃度とCyO活性の上昇はBMでは認められず、常に低いままであることが明らかとなった(論文[1])。一方、治療延命させたBM脳について組織化学的方法のみならず、生化学的にもCyO及びsuperoxide dismutase(SOD)の活性を測定した。その結果、8カ月令及び14カ月令BMの脳では、正常対照の活性レベルと統計的に有意差のないレベルにまで(すなわち完全に)回復することを明らかにした(論文[2])。完全回復に至る過程をCyOについてさらに調べたところ、銅治療後満3カ月では、正常対照レベルの約55%、4カ月で約70%、そして6カ月で100%に達することを明らかにした(論文[3])。以上から脳組織の銅濃度の低下→CyO活性の低下→ミトコンドリア変性→神経細胞死→脳変性が主で、これにSOD活性低下が関与していることが明らかになった。さらに生後13日令までのBM脳のmonoamine oxidase(MAO)の活性レベルを組織化学的並びに生化学的方法で調べたところ、正常同胞との間に有意差を認めなかった。それ故、MAOは本症の脳変性に直接関係しないと考えられる(論文[4])。
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