研究概要 |
本研究の目的はMenkes病の脳障害の発症に銅依存酵素の活性低下が大きく関与していることをモデル動物(brindled mouse,BM)を用いて証明することであり、以下の1〜5を明かにすることでほぼ達成された。1.正常マウスと異なり、BMでは生後から脳組織の銅濃度、cytochrome oxidase(CyO)活性およびsuper-oxide dismutase(SOD)活性は低いままであり、8日齢頃から糸粒体の腫脹に基づく神経細胞変性が進み、12日齢ではdopamine-β-hydroxylase(DBH)活性は殆ど零になり、15日前後で死亡する[論文(1)、(4)、(5)]。2.銅注射により6ヵ月以上延命されたBMの脳ではCyOとSODの活性は完全に正常化し、組織病変も殆ど正常化するが、組織銅濃度の回復は不良で24ヵ月延命させたBMでも対照の約60%レベルである[論文(4)、(6)]。3.正常マウス脳のmonoamine oxidase(MAO)活性がage-dependencyを示して上昇すること、BM脳でも同様に上昇し本酵素の低下が認められないことからMAOはマウスMenkes病の脳変性に大きく関与しない[論文(2)]。4.MAO活性染色の原法(Kishimoto et al.)から、潅流固定をしない変法を開発した。この変法で、屠殺後様々な時間経過のマウス脳を調べたところ、脳幹のMAO陽性ニューロンの染色性(活性)は死後4゚Cで4時間まではよく保たれること、すぐ凍結保存した脳では長期間きわめてよく保たれることを証明した。これはこの変法がヒトの剖検または生検組織に応用できることを示すものである。5.銅注射療法を再検討して、7日齢以後の銅投与ではBMを生存させられないこと、7日齢以前に投与する場合には5日目(20μg)と7日目(30μg)にするか、さらに9日目に10μg追加注射することによってもBMを長期延命させうる。しかし、それらの光顕的、電顕的および酵素活性の成績は7日目の50μgの単一注射によって延命させたものと比べ有意な差を認めることはできない。
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