研究概要 |
本研究の目的はMenkes病の脳障害の発症に銅依存酵素の活性低下が大きく関与していることをモデル動物(brindled mouse,BM)を用いて証明することであり、平成4年度の計画は1.dopamine-β-hydroxylase(DBH)の活性の測定と、2.銅治療法を再検討することであった。DBH活性に関して佐藤は、生後3日から12日の正常なマウスとBMの脳について比較し、さらに7カ月齢および15カ月齢の正常マウスの脳についても調べた。蛋白の定量はLowry法によって行い、DBHの測定はDavis & Kissingerの改良法で行った。正常マウスは生後3日で平均3nmol/mg protein/hrの活性化がみられ、この値はあまりageにより変動せず、15カ月まで続いた。一方BMでは、生後2〜3日は正常対照に比べ2〜3倍の高活性を示すが、急速に低下して9日目頃から逆転し、12日目で検出できなくなった。従って、DBHの活性低下がMenkes病の脳障害の発症に大きく関与するものと考えられた。銅治療法の検討として吉村は、銅注射開始を生後の様々の日齢で行い、かつ一回投与量を10〜50μgまで変えて皮下注射した。その結果、7日齢以後の投与ではBMを生存させることはできないこと、7日齢以前に投与する場合には5日目(20μg)と7日目(30μg)にするか、さらに9日目(10μg)に追加注射することによってもBMを長期延命させうることを再確認した。それらの光顕的、電顕的および酵素活性の成績には7日目に50μgの単一注射によって延命させたものと比べ有意な差を認めることはできなかった。しかし、ヒトMenkes病の治療では、銅による組織障害(特に腎障害)を予防する意味でも、小量反復投与法がより良い結果をもたらすものと推定される。
|