E1欠損症5例の分子遺伝学的解析を行った。蛋白ブロット法ではE1α蛋白、E1β蛋白の低下している例1例、E1β蛋白のみ低下している例1例、E1α蛋白、E1β蛋白とも正常対象と差を認めない2例である。 まず5例の患者線維芽細胞を大量培養し、グアニジン/塩化セシウム法及びオリゴdTカラムにてポリA^+RNAを精製した。このポリA^+RNAを用い、E1α及びE1βの各cDNAをプロ-ブとしRNAブロットを施行した。その結果5例の患者線維芽細胞では各mRNAともその大きさ及び発現量に異常は認められなかった。 次に抽出したポリA^+RNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、合成オリゴヌクレオチドを用いてポリメラ-ゼ連鎖反応により各々のE1α及びE1βcDNAの遺伝子増幅をおこなった。この増幅産物を用いて直接塩基決定法にて塩基の一次構造を決定し、塩基変異の有無を同定した。すでに4塩基欠失例を報告しているが、蛋白ブロット法にてE1α蛋白、E1β蛋白の低下している症例ではE1αcDNA上で第1147塩基の位置に4塩基挿入が認められた。E1βcDNAの塩基異常は認められず、上記変異によるE1α蛋白の異常がE1β蛋白を不安定化させたものて考えられた。また蛋白ブロットにてE1β蛋白のみ低下した例でもE1βcDNAの塩基異常は認められず、E1αcDNAにてC^<214>→T(Arg^<72>→Cys)の置換が認められた。これらの結果よりピルビン酸脱水素酵素ではE1α蛋白がE1β蛋白の安定性に深く関与している可能性が示唆された。今後セルラベリング等にて検討する予定である。他の1症例で、1塩基置換がE1αcDNA上で2種類認められたが、E1βcDNA上では異常は認められなかった。これらの塩基異常と病因との因果関係については、今後家族検索及び発現実験にて確認する予定である。
|