E1欠損症5例の分子遺伝学的解析を行い、蛋白ブロット法でE1α蛋白とE1β蛋白の低下している症例で、E1αcDNA上第1147塩基の位置に4塩基挿入していることを昨年度報告した。しかし本児においてE1βcDNAの塩基異常は認められなかった。次に本患児は女児であるので、cDNAとゲノムDNAで4塩基挿入の周囲をPCRをもちいて遺伝子増幅し、4塩基挿入のオリゴプロ-ブと正常オリゴプロ-ブを用いたASOハイブリダイゼ-ションをおこなった。cDNAは見かけ上4塩基挿入のみのホモ接合体であり、ゲノムDNAは4塩基挿入と正常のヘテロ接合体を示した。cDNAが何故見かけ上変異のホモ接合体となったかについて以下の実験で検討した。培養線維芽細胞をSV40でライン化した後、limiting dilutionでクロ-ン化したところ、正常活性を持つ細胞と、活性のない細胞とが得られた。しかも、正常活性を持つ細胞のcDNAは正常アレルのみで、活性のない細胞のcDNAは変異アレルのみであった。以上のことから本児の病態はX染色体の不規則な不活性化によって説明することが出来た。さらに両蛋白の低下の説明として以下の事実は注目に値する。つまり蛋白ブロットにてE1β蛋白のみ低下した例でもE1βcDNAの塩基異常は認められず、E1αcDNAにC214→T(Arg72→Cys)の置換が認められたことである。これらの結果より、ピルビン酸脱水酵素においてはE1α蛋白がE1β蛋白の安定性に深く関与している可能性が示唆された。また我々の経験したいずれの例においても、両親には同変異を認めず、突然変異で起こったとしか考えられず、本疾患の変異発生の特徴と考えられた。
|