目的:Menkes kinky hair病(以後MKHDと略す)のモデル動物であるMacular mauseのhemizygoteは自毛で生後10日目頃から、失調、けいれん、体重減少を示し、生後15日前後に死亡する。このマウス脳では、銅含有量は低下し、生後7日目頃から神経細胞の樹状化が遅れ、その内に異常ミトコンドリアが出現し、cytochrome c oxidase(CCO)活性が低下する。MKHDの患児の中枢神経系の病態をより深く知るためにこれらのマウスを用い脳移植を行い、移植片と宿主側の脳についてその病理的変化を研究する。 方法:(1)hemizygoteの胎令18日目の大脳皮質と出生時の小脳皮質を日令2日目の正常マウス大脳皮質に移植した場合、および(2)正常マウスの胎令18日目の大脳皮質をhemizygoteの大脳に移植した場合について、Golgi染色、組織化学(CCO活性)および電顕にて観察した。 結果:(1)の場合、移植後14日目の観察では、hemizygoteの移植片のPurkinje細胞の樹状化は遅れ、大脳、小脳ともCCO活性も低下し、腫大した異常ミトコンドリアが神経細胞内に見られた。(2)の場合、移植後10日目の観察では、正常マウスの移植片の大脳皮質神経細胞にはhemizygoteの神経細胞で見られたような変化は観察されなかった。 結論:hemizygoteの移植片にみられる病理所見は正常マウス脳では消失せず、正常マウスの移植片の神経細胞もhemizygote脳内でhemizygoteと同じ変化を示さなかった。このことはhemizygoteの病理所見がhemizygote内で二次的におこる銅不足のみに起因するのではなく遺伝子に起因した変化である可能性も推測された。
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