研究概要 |
乳児難治性下痢の1女児例におけるcyclic TPN施行時の糖・エネルギ-代謝の年齢的推移を示した。低年齢(3歳,4歳)では再開直前、すなわちTPN中断後8〜9時間で血糖が40〜45mg/dl程度まで下がり、血中NEFAが著しい高値をとり、脂肪の動員が起こっていることが示されたが、5歳6ヵ月では、血糖の下がりはより緩やかで、脂肪の動員も抑えられていた。またTPN再開後の血糖、インスリンの変動も5歳6ヵ月時は3歳時に比べ小さく、糖代謝に関しては、TPN中断・再開に対する適応が進んでいることがうかがわれた。また各年齢時とも、TPN施行中の安静時熱消費量は、各年齢相当の健常小児に比べても高く、かつTPN中断中は低下することからTPN施行中はエネルギ-消費の亢進が存在することが明らかとなった。これは、いわゆるnutrients induced thermogenesis(NIT)によるものと考えられる。TPN施行中の呼吸商は輸液漸減前には3歳6ヵ月、5歳とも1を超えているが、TPN中断中は1を切り、輸液再開前に最低値をとる。このことは、TPN中には脂肪合成に傾いていた代謝が、輸液中断とともに脂肪の合成から燃焼に転じ、しかも輸液再開前になるにつれ、すなわちグルコ-スの補給がとだえている時間が長くなるにつれ脂肪の燃焼する割合が増えてくるということを示すものと考えられる。低年齢時では、TPN中断後8〜9時間で、明らかな臨床症状は伴わないが血糖がかなりの低値になり、著しい血中NEFAの動員が起こってくる。われわれは血中ケトン体を測定していないが、このときには、かなりのケト-シスが招来されていることが予想され、糖代謝から考えると、低年齢時ではTPN中断時間は長くしすぎないようにすることが必要であると考えられた。実際、われわれも、3、4歳のころにはこの日内変動施行後、輸液中断時間を若干短縮したり、中断中に特殊ミルクを補ったりの工夫を行った。
|