正常な糸球体基底膜は陰性荷電を有し、同じく陰性荷電を有するアルブミン等に対して、電気的障壁となり、アルブミン等の蛋白は糸球体基底膜を透過しないことが明らかにされている。微小変化型ネフローゼ症侯群では糸球体基底膜の陰性荷電が減少しており、この結果高度の蛋白尿が出現し、ネフローゼ症侯群が惹起されると考えられる。 平成3年、私共は共同研究者のConnollyによってヒトリンパ腫細胞株の培養上清から分離精製された血管透過性亢進因子をラットの腎動脈に注入すると、尿中アルブミン排泄は増加することを明らかにした。微小変化型ネフローゼ症侯群では血管透過性も亢進しており、かつ血管透過性亢進因子は電気的に陽性荷電を有することから、この血管透過性亢進因子が糸球体基底膜陰性荷電の減少を起こし、高度蛋白尿を引き起こす可能性が考えられる。 そこで平成4年度は血管透過性亢進因子産生細胞を明らかにする目的で血管透過性亢進因子mRNAは発現を検討したところ、末梢血単核球、糸球体、糸球体メサンギウム細胞に血管透過性亢進因子mRNAの発現を認めた。さらに培養メサンギウム細胞を抗血管透過性亢進因子抗体で染色したところ、メサンギウム細胞内に血管透過性亢進因子の発現を認めた。以上の所見から、微小変化型ネフローゼ症侯群では、単核球、糸球体メサンギウム細胞が血管透過性亢進因子を産生し、その結果糸球体基底膜の透過性は亢進し、ネフローゼ症侯群が惹起される可能性が示唆された。
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