1974年Shalhaubが「微小変化型ネフローゼ症候群はリンパ球の異常により惹起される」とする仮説を発表して以来多くの免疫学的異常が報告されてきたが未だ病因の解明には至っていない。微小変化型ネフローゼ症候群の病因を解明するために、私どもは過去数年にわたり免疫学的、病理学的研究を行い、微小変化型ネフローゼ症候群患児の糸球体基底膜は陰性荷電が滅少していることを明かにした。 微小変化型ネフローゼ症候群患児の血清、リンパ球培養上清をラットの腎動脈に注入したところ、糸球体基底膜の陰性荷電は減少、尿中アルブミン排泄の増加を認め、微小変化型ネフローゼ症候群ではリンパ球によって産生される因子が糸球体基底膜陰性荷電の減少を起こし、高度蛋白尿を引き起こすと考えられた。 最近共同研究者のConnollyによってヒトリンパ腫細胞株の培養上清から血管透過性亢進因子が分離精製され、微小変化型ネフローゼ症候群患者の血中、尿中に血管透過性亢進因子が検出された。血管透過性亢進因子をラットの腎動脈に注入すると、尿中アルブミン排泄は増加した。血管透過性亢進因子産生細胞を明らかにする目的で血管透過性亢進因子mRNA発現を検討したところ、末梢血単核球、糸球体メサンギウム細胞に血管透過性亢進因子mRNAの発現を認めた。さらにメサンギウム細胞を抗血管透過性亢進因子抗体で染色したところ、メサンギウム細胞内に血管透過性亢進因子の発現を認めた。微小変化型ネフローゼ症候群では血管透過性も亢進しており、かつ血管透過性亢進因子は電気的に陽性荷電を有する。以上の所見から、微小変化型ネフローゼ症候群では、単核球、糸球体メサンギウム細胞が血管透過性亢進因子を産生し、糸球体基底膜陰性荷電の減少、透過性の亢進を起こし、ネフローゼ症候群を惹起すると考えられる。
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