研究概要 |
汗孔角化症(以下PK)は遺伝性角化異常症であるが,近年その高発癌性が注目されている。本研究では以下の3点について成果を挙げたので報告する。1)悪性化したPKの臨床症状の解析により悪性化例の特徴を明らかにした。本邦と欧来での悪性化例を文献的に検討すると,大きな皮疹を呈する限局型,融合してやはり大きな皮疹を形成する表在播種型に悪性化が多いこと,紫外線で皮疹の誘発される日光表在播種型では悪性化が起きにくいこと,悪性化は60才頃に起こり,20〜40年の長年月を要するが,幼児期にPK皮疹の出現する線状型で特に長いことが判明した。2)前述の如く,大きな皮疹は悪性化しやすいことが判明したので,大きいPK皮疹の表皮,表皮細胞について組織学的変化,細胞核ONA量を検討した。表皮肥厚,表皮のdysplasiaが高頻度にみられること,核DNA量の豊常を示す細胞群の頻度が高い,あるいは同異常の程度の強い細胞群が存在することが判明した。即ち大きなPK皮疹には増殖力の強いMalignant Potentialのより高い細胞群の存在が示され,悪性化頻度の高いことをよく説明しうる所見であった。3)培養した表皮細胞,線維芽細胞の染色体を分析した。染色体異常の頻度は線維芽細胞では皮疹部,健常部皮膚ともに同様に高値を示したが,表皮細胞では皮疹でより頻度が高かった。即ち,染色体不安定性はPK患者の皮膚全体に存在するが,皮疹部表皮では染色体異常を示す細胞が特に多く,それらのneoplastic,potentially malignant cloneが皮疹生成,さらに悪性化に関連する細胞群と推測できた。 以上,PKの発癌機構の一端と文献的,細胞学的,細胞遺伝学的見地から明らかにした。
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