研究概要 |
放射線治療を受けた患者の末梢血を用いて,以前に放射線被曝を受けたリンパ球が再度被曝した場合の放射線による染色体異常誘発の感受性が非被曝者のリンパ球染色体のそれと比較して差異が存在するかどうかを調べた。In vitroの照射はテレコバルトを用い,0.05Ggから40Ggまで種々な線量を照射し,また,照射を受けたことのない例でも同様な照射を行い比較した。照射対象は4群に分けた。(1):非被曝健康.青年の血液での放射線誘発染色体異常の線量効果関係,(2):腫瘍が小さく全身状態に影響を及ぼしていない患者あるいは術後照射患者の血液における放射線誘発染色体異常の線量効果関係,(3):放射線治療終了後2.5年以内の無再発例の血液での放射線誘発染色体異常の線量効果関係,(4):放射線治療終了後10年以上無再発で経過した症例の血液での放射線誘発染色体異常の線量効果関係。 放射線治療前の患者での染色体異常頻度は非被曝の健康青年のものよりはやや高く,放射線治療前における放射線診断の影響によるものと考えられた。放射線治療終了後2.5年以内の症例の血液を用いた場合,in vitro照射により生ずる染色体異常頻度は照射を受けていない者の血液における頻度より高く,特に,細胞当り染色体異常頻度の高い細胞の割合が多くなる傾向が認められ,放射線誘発染色体異常を既に有するリンパ球は再度の放射線被曝に対する感受性が亢進していることが示唆された。 しかし,放射線治療後10年以上経過した症例ではそのような染色体異常誘発の亢進は認められなかった。原因としては放射線治療後長年経過すると染色体異常を有するリンパ球は大部分死滅し,新しい細胞に置き換るために放射線感受性ももとに戻ることが考えられた。この所見は照射された非再生組織では傷害の排除が出来ず蓄積されるために,再照射の際の放射線抵抗性が低下するという考え方に一致する。
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