研究概要 |
造影剤による致命的な副作用は,ショック,即ち,急激な血圧低下および呼吸因難であるが,前者は血圧を調節しているアンギオテンシン変換酵素(ACE)の阻害による可能性があり,また後者は気管支の収縮を調節しているアセチルコリンエステラ-ゼの阻害によって発症しうると考えられる。これらの酵素に対するヨ-ド造影剤の影響を検討する事が本研究の目的であるが,これらの酵素は臓器組織のみならず,血中にも存在するので,まず血中酵素に対するヨ-ド造影剤の影響を検討した。 1.アセチルコリンエステラ-ゼに対する影響 赤血球膜に存在するアセチルコリンエステラ-ゼの活性は分光光度計で測定した。洗浄赤血球膜のアセチルコリンエステラ-ゼ活性は造影剤により低下したが,高浸透圧系よりも低浸透圧系造影剤の方が活性低下が強く,また低浸透圧系造影剤でも,イオン系造影剤の方が活性低下が強かった。アルブミンを加えるとアセチルコリンエステラ-ゼの活性は回復し,造影剤のアセチルコリンエステラ-ゼの阻害は可逆的であり,人体の血中では,アルブミン濃度も高く,造影剤によるアセチルコリンエステラ-ゼの阻害効果は少ないと考えられる。 2.ACEに対する影響 EDTAはACEを阻害するが,造影剤には安定化剤として,EDTAを含んでおり,含有するEDTAがACE活性を低下すると考えられた。EDTAおよび造影剤による血漿ACE活性の変化はHPLCにより測定した。イオン系,非イオン系造影剤は全て,造影剤の濃度依存性に同様のACE活性の低下を示し,造影剤製剤間の差を認めず,またEDTAも濃度依存性のACE活性低下を示した。推定の患者血中造影剤濃度では,血中Caイオン濃度の有意な低下はなく,造影剤含有のEDTAが特異的にACE活性を阻害したと考えられる。
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