研究概要 |
コチニンは生体内におけるニコチンの代謝産物であり,半減期がニコチンと比較して長いため喫煙の指標として適している。昨年度までの研究の結果,高速液体クロマトグラフィによる尿中コチニンの高感度測定法を確立し,尿中コチニンの測定結果から喫煙あるいは受動喫煙の指標として以下のような基準を設定した。(1)尿中コチニン50ng/mg creatinine以上は喫煙者,(2)尿中コチニン10ng/mg・creatinine以上50ng/mg・creatinine未満は受動喫煙の高度な非喫煙者(受動喫煙者),(3)尿中コチニン10ng/mg.creatinine未満は受動喫煙の軽度な非喫煙者。 今年度は慢性動脈閉塞性疾患患者において尿中コチニンと血液中の凝固線溶マ-カ-を測定し比較検討することにより,喫煙がこれらの疾患におよぼす悪影尾について血液凝固線溶の観点から検討した。患者は閉塞性動脈硬化症35例,難治性血管炎23例であり,難治性血管炎の内訳はBuerger病19例,大動脈炎症候群3例,強皮症1例である。血液中の凝固マ-カ-としてトロンビン・アンチトロンビンIII複合体,フォンヴィルブランド因子,プロテインC,プロテインS,線溶マ-カ-としてフィブリン分解産物,Dーダイマ-,プラスミン・プラスミンインヒビタ-複合体,組織プラスミノゲンアクチベイタ-,フィブリノペプタイドA,プラスミノゲンアクチベ-タ-インヒビタ-Iを測定した。閉塞性動脈硬化症は喫煙者14例,受動喫煙者8例,非喫煙者13例であり,プラスミン・プラスミンインヒビタ-複合体が喫煙者および受動喫煙者で非喫煙者に比べ有意に高かった(P<0.01)。難治性血管炎では喫煙者9例,受動喫煙者6例,非喫煙者8例であり,プラスミンアクチベ-タ-インヒビタ-Iが喫煙者で受動喫煙者および非喫煙者に対して有意の高値であった(P<0.05)以上から喫煙は閉塞性動脈疾患患者の線溶能を低下させ,病変の進行に関与しているものと考えられた。
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