1)閉塞性動脈硬化症(ASO)とバージャー病(TAO)は慢性閉塞性動脈疾患の代表的なもので、いずれも喫煙が危険因子の1つとされている。また、受動喫煙も問題となっている。しかし、喫煙・受動喫煙がこれらの疾患にどのような悪影響をおよぼすか、いまだ不明であった。その理由は喫煙・受動喫煙を客観的に評価する適当な方法がなかったからである。我々は尿中コチニン測定によりその評価の方法を確立した。本年度はおもにTAOにおける喫煙・受動喫煙の凝固線溶に及ぼす影響について研究した。 2)対象は当科外来通院中のTAO23例である。喫煙についての問診と採血・採尿をおこない、尿中コチニンと凝固線溶マーカーを測定した。 3)尿中コチニン測定による喫煙の評価 問診で非喫煙者であると答えたものは23例中17例であった。このうち尿中コチニン測定にて非喫煙者と確認されたのは6例35%にすぎず、5例29%が受動喫煙者、6例35%が喫煙者と確認された。問診で喫煙者と答えたものは6例で全例喫煙者と確認された。 4)TAOにおける喫煙・受動喫煙の凝固線溶に及ぼす影響 尿中コチニンの結果で対象を非喫煙者群(n=6)、受動喫煙者群(n=5)、喫煙者群(n=12)の3群にわけ、凝固線溶マーカーの平均値を比較したところ、プラスミンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)に有意差が認められた。すなわち、PAI-1は喫煙者群で非喫煙者群・受動喫煙者群に比し有意に増加していた。PAI-1はプラスミノゲンアクチベーターを阻害するのでその増加は線溶能の低下を示唆するものと思われる。 5)まとめ i)喫煙・受動喫煙の客観的評価に尿中コチニン測定は有用であった。 ii)喫煙はTAOにおいて線溶能を低下させることが示唆された。
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