脂肪乳剤の人工脂肪粒子の血管内代謝は中性脂肪の多いリポ蛋白(TGーrich lipoprotein)のひとつであるカイロミクロンに類似する。一方人工脂肪粒子の構造はカイロミクロンと異なっている。すなわちカイロミクロンにはアポリポ蛋白が結合しており、とくにアポリポ蛋白CーII、CーIIIならびにEは中性脂肪の加水分解の調節とそのremnantを肝細胞に結合させる蛋白として重要である。これらカイロミクロンに結合しているアポリポ蛋白は高比重リポ蛋白(HDL)より転送されることがわかっている。本研究は人工脂肪粒子もその代謝過程でカイロミクロンと同じようにHDLよりアポリポ蛋白を結合し(人工脂肪粒子のリポ蛋白化)、両者の代謝を類似したものとしている可能性を検討することを目的として行なわれた。得られた結果を要約すると以下のごとくである 1.人工脂肪粒子は血中において直ちにHDLよりアポリポ蛋白CーII、CーIIIならびにEを結合する. 2.アポリポ蛋白CーIIとCーIIIは脂肪の加水分解速度に対応してHDLに戻るが、Eは加水分解産物である人工脂肪粒子のremnantに残る. 3.HDLから人工脂肪粒子にはin vitroにおいても、あるいは乳化剤(親水基)をリン酸質からプルロニックに変えてもアポリポ蛋白は転送されることにより、アポ蛋白の親水基に対する親和性により結合するもと考えられる. 4.人工脂肪粒子からHDLに戻ったアポ蛋白は新たに侵入してくる脂肪粒子直ちに転送されるが、侵入してくる脂肪粒子とHDLの量的バランスにより、アポ蛋白を結合し得ない脂肪粒子が血中に貯留してくる可能性がある.投与された脂肪粒子の全てがリポ蛋白化される安全な脂肪乳剤の投与速度は0.1gTG/kg/hrと断定しうる.
|