近年の救急医療の進歩により、重症多発外傷患者の救命率は著しく向上した。しかし一方では急性期の一時的な損傷部位の修復に成功したにもかかわらず、侵襲に伴うエネルギ-代謝の不均衡と蛋白異化の亢進のため、その後の感染や多臓器不全で死亡することが多くなった。われわれは外傷急性期にも利用できるエネルギ-基質として、組織浸透性の良好なケトン体の有用性に着目し検討をすすめてきたが、すでに外傷患者における経静脈的投与により蛋白異化の亢進が抑制できることを報告した。しかし外科的侵襲時に投与されたケトン体がエネルギ-基質として良好に酸化され、利用されているのかを明らかにした研究はこれまで行なわれていない。本年の研究では^<14>Cで標識したケトン体とグルコ-スを熱傷ラット、および正常ラットに投与し呼気^<14>CO_2への回収率を測定することにより、両エネルギ-基質の燃焼率を比較検討した。正常ラットにケトン体を投与した時の6時間後の呼気^<14>CO_2累積回収率累積は67.5±3.4%であるのに対し、グルコ-ス投与では48.3±4.9%であった。熱傷を作成したラットではグルコ-スの回収率は42.2±6.7%に低下したが、ケトン体を熱傷ラットに投与した時の回収率は67.9±7.2%と正常時とほとんど変化しなかった。本研究は熱傷急性期という外科的侵襲時にも、投与したケトン体がグルコ-スに比較し良好かつ速やかに燃焼していることを初めて明らかにしたものであり、この結果はケトン体のエネルギ-基質としての有用性を支持するものである。本年の研究の一部は第17回日本熱傷学会、The 51th Annual Meeting of The American Association for the Surgery of Traumaにて発表予定である。今後の研究課題としては、ケトン体を長時間投与した場合の燃焼率を含め、輸液製剤としての可能性を検討する。
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