近年、癌手術症例の増加に伴い、胃切除後の逆流性食道炎などによる食道疼痛、及び食道切除後のQuality of lifeを考える上でも食道痛の神経学的発生機序を明らかにする必要があると考え、Horseradish Peroxidase(HRP)による逆行性軸索輸送を用いて、今回は、頸部食道は、胸部食道の知覚神経支配経路をめらかにした。 雌雄成熟ネコを用い、sodium pentobarbitalによる全身麻酔後、(1)左側横隔神経切断、(2)左側大内臓神経内断、(3)左側星状神経節切除のいず感かの処置を加え、HRPを頸部食道筋内に注入した群、および脳部食道下部の注入した群を作成した。HRP注入後48時間の生存期間をおき、深麻酔下に、経左心的にヘパリン加生理食塩水にて脱血潅流し、1.25%glutaraldehydeー1%paraformaldenyde加燐酸緩衡液で潅流固定し、その後、10%サッカ-メ-ス加燐配緩衡液にて潅流した。第1頸官から第2腰随に及び脊髄後根神経節(DRG)を取り出し、クリオスタットにて40μm厚の凍結切片を作成し、顕微鏡下にHRP陽性細胞を観索した。 頸部食道筋内注入群では、左側横隔神経喜断により左側の第2頸髄DRG(C2)〜第5頸髄DRG(C5)の陽性細胞が減少し、左側大内臓神経切断による左側の第2胸髄DRG(T2)〜第7胸髄DRG(T7)の陽性細胞が減少し、左側星状神経切除により左側頸髄の胸髄DRGともに陽性細胞が減少した。胸部食道下部注入群では、左側横隔神経切断により、頸髄・胸髄DRGともに陽性細胞の分布および数に変化を認めず、左側大内臓神経切断により、左側のT3〜T9の陽性細胞が減少し、左側星状神経節切除により、左側の胸髄DRG全域において陽性細胞は減少した。よって、横隔神経は頸部食道筋の主要知覚神経路であり、大内臓神経は頸部・胸部食道筋両者の知覚神経路であると考えられ、また、星状神経節を介する知覚神経路も存在することが示唆された。
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